耳垢が明かす人類の進化と移住

耳垢から見る人類の壮大な旅

人類の道のり

民族ごとに異なっている耳垢の傾向は、いったい何故生じたのでしょうか?
近年になって優秀なDNA分析技術が登場したことにより、耳垢に隠された人類進化の秘密が明らかになっています。

人間の耳垢は元々湿性

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私たち「ホモ・サピエンス」が生まれたのは約20万年前のアフリカ中西部、現在のエチオピアにあたる地域と見られています。
誕生してからは何万年かに渡ってアフリカで分布を広げ、10万年ほど前に少数のグループが他の大陸への移動を始めました。

現代でもアフリカの遺伝子多様性の高さは、地球の他の地域すべてを合わせたよりも大きいことで知られています。
しかし、耳垢に関してはほぼ全ての人が湿性耳垢の持ち主です。
そのため、元々は人間の耳垢は湿性であると見た方が良いでしょう。

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そもそも、ほとんどすべての動物は耳垢が湿性で、人間以外に乾性の耳垢を持つのはネズミだけです。
人間でも全体から見ると乾性耳垢は少数派なので、最初の人類の耳垢も湿っていたと考えられます。

乾性耳垢人の故郷

バイカル湖

耳垢の性質を決める「ABCC11」遺伝子が「A・A」になる変異は、今から約3~2万年前に、シベリアのバイカル湖付近で生じたと考えられています。
どんな変異もそうですが、それが生き残るのに役に立たない物なら、その内消失し、仮に残っていても広がることはありません。

しかし、ABCC11がA・Aになる変異は、この時期のシベリアで生き残るのに何か有利な体質をもたらしたようです。
ここで生じた変異は生き残り、他の地域へと広がっていきました。

乾性耳垢人は何が有利だったのか?

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3~2万年前というと、地球は氷河期のさなかで、しかも特に気温が低い「大寒期」と呼ばれる時期でした。
現在でも、バイカル湖付近において1年の半分は気温が0度以下で、最低気温はマイナス30℃にもなります。

こうした地域では汗がたくさん出ても特に意味が無いので、アフリカにいる人より汗腺の数が少なくても問題はありません。
病原菌や害虫の数も少なくなるので、防虫・殺菌効果のあるアポクリン腺が多くても意味がなかったということも考えられます。

あるいはABCC11の変異がもたらす耳垢や汗腺以外の違い(病気への耐性、代謝の違い)が関係していた可能性も考えられます。
いずれにしろ、ABCC11の変異がもたらす「何か」が、生存・繁栄に有利であったことは確かです。

広がっていった乾性耳垢人

バイカル湖付近で発生した乾性耳垢人は旅をして様々な地域へと広がっていきました。
現在の中国や朝鮮半島、日本の人々が持つ乾燥耳垢の遺伝子は、バイカル湖から南へと広がっていったグループが持っていたものです。

別のグループは、当時は陸続きになっていたベーリング海を渡り、北アメリカ大陸に移住しました
アメリカ大陸の先住民は、皆ベーリング海を渡った人々の末裔であり、今日でも高い割合で乾性耳垢の変異が見られます。

アメリカを南下していく際の変異

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南北アメリカ大陸の先住民は皆ベーリング海を渡って来た人々の子孫ですが、南に行くにしたがってABCC11がA・Aの人の割合は低下していきます。
もしかすると、これは「ABCC11の変異は寒い場所でこそ有利」ということを示しているのかもしれません。

たかが耳垢とはいえども、調べることで何万年にもわたる大陸をまたいだ人類の旅と進化の道のりを知る手掛かりになるのです。

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