耳垢も世界最大:クジラの耳

耳の穴が無くても困らない生き物

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大抵の動物の耳垢は、特に掃除しなくても自然に排出されるようになっています。
人間と違って耳掃除が出来ない動物たちでは、何かの拍子に耳垢が詰まって耳が聞こえなければ命にかかわります。

しかし、一生を水中ですごすタイプの生物は、耳の穴が無くとも困りません。
水は空気の千倍の密度があって非常に良く音を伝えるので、水中にいれば伝わってきた振動は骨を介して内耳まで届いてくれるのです。
陸上の生き物でも、水に入れば骨を介してそれなりに音を聞くことができます。

魚

魚は下あごの骨を介して水中の振動を内耳まで伝えているため、耳の穴や鼓膜といった器官は持っていません。
鼓膜がある動物は両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類などで、生き物が地上に上がってきてから獲得した器官であることがわかります。

クジラの耳

パキケトゥス

クジラやイルカは魚と同じように完全な水中生活を送っているため、空気の振動を探知する必要が無くなっています。
しかし、元から水中にいたわけではなく、祖先は陸上で生活していました。
約5300万年前に生息していたクジラの祖先は、犬にそっくりな姿であったことが分かっています。

クジラの耳

祖先が陸上の動物なので、クジラやイルカも外耳道、鼓膜、中耳を持っています。
ただし、耳の穴は塞がっているために外からは確認できず、耳たぶもありません。
魚と同じように下あごの骨で音を内耳に伝えているので、外耳も中耳も無用です。
クジラ類が生き残って進化していけば、いずれ完全に消え去るでしょう

クジラの耳垢

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外耳道があれば当然ながら耳垢も発生しますが、排出する穴がふさがっているので、一生涯に渡って耳垢は溜まり続けます。
溜まった耳垢は「耳垢栓」いう塊になり、そのサイズは数十cmにも達します。
まさに世界最大の耳くそです。

ため込まれ続けた耳垢には、クジラの年齢、成長の様子、各年における健康状態、いつ病気をしたかなど、クジラの一生涯に渡る情報が「詰まって」います。
捕鯨船が鯨を捕殺した際には、研究者が解体に立ち会ったり試料を受け取ったりしてクジラのデータを集め、耳垢栓も重要な試料として回収されます。

耳垢に刻まれた秘密

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南半球に生きるクジラは夏になるとエサの豊富な南極大陸付近で過ごすので、耳垢栓には脂肪分の多い明るい帯のような跡が刻まれます。
冬の繁殖期にはエサが少ない代わりに天敵のシャチがいない赤道付近で過ごすため、脂肪が少なく垢が主体の黒い帯が生じます。

白い部分と黒い部分からなる縞の数を測定すれば、クジラの年齢が分かるというわけです。
また、耳垢には男性ホルモンや、ストレスホルモンも残されています。
年代ごとに溜まった耳垢中のホルモン量を調べれば、クジラが繁殖期であったり、ストレスを感じていたりする時期まで判別できます。

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ちなみに、耳垢で年齢を測定するのはクジラのひげを持つ「ひげクジラ」の種類だけで、マッコウクジラやイルカのような「ハクジラ」の仲間は歯を調べることで年齢を測定します。

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